髪を切ったたたたた

 髪の毛があまりに伸びすぎて困っていたので、ついカッとなってさくさく切ってきた。今回は以前から切ろう思ってタイミングを虎視眈々と狙っていたのにもかかわらず、様々な要件で時間がなかなか割けなかった事に加え、寸暇を見つけて床屋に行ったら目星を付けてた店舗がどこも満杯だったりするなど機会にも恵まれず、気が付くと髪の毛は耳を覆い被すほどに伸びてしまい、ヘッドフォンを装着すればカップに入って邪魔になり、耳かきしようと思ったら髪の毛のカーテンをかき分けなくてはならないなど、もうイライラしっぱなしの日々だったのだ。

 さて、先日は別件で仕事を1日お休みにしてお出かけしていたのだが、お昼に1時間ほど時間が作れたので「これはチャンス」と家を飛び出したのであった。
 一応フォローすると、僕は去年まで美容師である実母に髪の毛を切ってもらっていたので、外で散髪した経験は殆ど無い。数ヶ月前に初めて体験したんだけど、その時はカット価格最安クラスの店だったためか色々と不満の残る結果に終わってしまった。今回はそれを反省して、少し上のクラスの床屋に突入することにした(全然反省してねえ) ちなみに「タケシ、お前も可愛いぞ」のお店であるよ。このCM聴いたことないけど。


 入店すると、受付のお姉さんが「今日はどのように?」と投げかけてきたので「えーと、カットとシャンプー」と震える声で指定。先に精算を済ませると、奥の方から担当がやってきた。短髪でツンツン金髪の30代中頃といった風貌。なんだろうこの微妙なパンクっぽさ・・・。
 んで、席について「適当に短くしてください」と曖昧指定(これまでは問答無用で切られていたため、指定の方法がよくわからんのである。雑誌の切り抜き持っていくわけにもいかないしなあ) しかし「髪の毛立つくらいがいいですか?」「すそはバリカンで?はさみで?」などの細かい質問のラッシュに気圧され、「ああ、ええと」と言葉に詰まる事数回あり、こんなに沢山指定することあるのか〜とちょっぴり途方に暮れる。

 カット開始。しばらく担当は無言ではさみを動かしていた。美容室育ちの僕には「カット中は担当と客との探り合いトーク」が基本かと思ってたのになあ、とか考えつつボーッとテレビを観ていた・・・が、担当がついに動いた。
 「今日はお仕事お休みなんですか?」
 これか!これが床屋談義とかいうヤツなのか!と内心大喜びしつつ、冷静に「ええ、今日はたまたま休み取れて・・・」といったような流れに。しかし、探り合いが想像を絶するめんどくささであると認識したので、途中からかなり投げやりになりつつも、個人情報保護法の話など個人的に興味のある事を一方的にポツポツ喋ってみたりした。

 カットの途中、担当が手を止めて一度「うーん」と唸ったあと、「サイドちょっと膨らんじゃいますね(直毛なので襟足や耳の上あたりがすごく膨らんで見える)、もっと深く刈りましょうか?」との提案。そうかこういうのは「深く」という表現なんだ!とまたもどーでもいい感動を確かめ、「えーと、はい、お願いします」と返答。そこでそういや言ってなかったなーと思い
 「いや僕、実家が美容室なんで外で切った経験って殆ど無いんですよ。」
 「・・・って、床屋や美容室に行ったことないってことですか?」
 「ええ、今日で2回目で。」
 「ホントですか!?」
 うむ、いいリアクションだ。ちょっと気持ちよかった。そこで「母がもう歳なので行きつけ探ししてるんです」とか適当な事をでっちあげつつ(実際には母に韓流スターっぽい前髪だけ長いカットをされて二度と頼みたくなくなったからだが)、細かい指定の仕方などを少しだけ教えてもらう。

 で、さらに話の流れで「休みの日は何してるんですか?」と聞かれた。この質問が一番苦手なんだよなー(「曲作ってる」→「歌うんですか?」→「いや、テクノってジャンルで」の説明が面倒)と思ったが、去年の事例を思い出したので今回は敢えて全部答えてみることにした。
 「えーと、曲作ってますね。去年は那覇のクラブでDJやってましたよ。」
 「・・・は? DJ?」
 「ええ、DJですけど。」
 「ええええええ?!」
 うむッ!とてもいいリアクションだッ!とても気持ちいいぞッ! それはそれとして客に対して正直過ぎませんかお兄さん。でもまあそりゃーそうだよなあ、近所のおっさんがふらっとやってくる程度の床屋に来た、どっからどう見ても引き籠もりっぽいもっさいピザが突然「いやあDJやっててですね」とか言い始めたらドン退きですよ。熱血の場所を教えたりしたものの多分信じていないご様子だったけど、そこもこっちは予想通りだったんで満足。

 とかなんとかやってるうちにカット終了、次に待っていたのはシャンプーで、僕は初めての床屋シャンプーでちょっと興奮気味。しつこいけど僕は美容院育ちなので、俯せでシャンプーするのも初めてなのだ(前回はカットのみだったし)
 というわけでシャンプー初体験は・・・うーんやっぱり仰向けの方が落ち着くなあ、というのが正直な感想。というのも、水が鼻や口にかかっちゃいがちなのでイヤな感じなんだよね。まあ刈り上げとかする関係で俯せの方が都合いいんだろうなーなんて思いながら水に耐えていた。その事を担当に話すと「最近は床屋でも仰向けのところ増えてますよねー」とのこと。僕も推奨します、終わった後襟元びしょぬれだったしさあ。

 そしてようやくエンディングへ。「整髪料使います?」との問に「いや、そこは自分でやるんで大丈夫です」と断り、育毛剤と思われる液をまぶして頭皮マッサージ。そして髭剃りは今回付けてないので、これにて終了と相成った。時間にして45分ほど。いやあお疲れ様でした。
 スースーする首もとに達成感を感じ、車の窓を全開にして帰路につく。帰宅して奥様が放った一言は
 「おー切ってきt・・・なんかオッサン臭いよ?」
 うん、僕も薄々感づいていたんだけど、どう考えても最後に使ってた育毛剤が原因で、頭から激しい加齢臭がするんだよね。チックショウあの担当め、僕は20代後半だと何度言ったら・・・と思いつつ、台所のシンクで本日2度目のシャンプーをするのであった。うう、今度こそグレードの高めな店に行かなくては・・・。